死者の短剣 遺産

1作目の「死者の短剣 惑わし」の続編になるので、必ずそちらを先に読んでください。(この感想も)

前作では、地の民の娘フォーンと湖の民の警邏隊のダグが出会い、種族の違いを超えて惹かれあい、結婚するところまででした。本作は、二人の結婚から二時間後の場面から始まります。二人はダグの親族に結婚を認めてもらうために駐留地へ向かいます。駐留地についたフォーンは、ダグの家族から冷たい仕打ちを受けます。湖の民は地の民を格下と見ており、偏見を隠そうともしません。ダグ自身も家族とはうまく行っておらず、二人の関係は中々認めてもらえません。

それでもフォーンは湖の民の生活に馴染もうと、自分にできることを探し努力します。またダグと家族の関係も改善させたいと願います。この辺はファンタジー版嫁姑争いで、ちょっとだれます。

しかし、ここを我慢して読んでいくと、一気に物語が動き、目が離せなくなります。また、この前半の家族間のあれこれも、しっかり物語に絡んできて、著者のうまさを感じます。



では、ここで物語世界の説明をちょっとだけ。
地の民は、地を耕し土地に根付いて生活をします。特別な技は持ちません。湖の民は、地の民よりも長命で魔法の技を持ち、悪鬼と何世代にもわたって戦っています。湖の民は人の「基礎」を見ることができ、その「基礎」を用いて戦ったり、癒したり、物を創ったりするのです。悪鬼は、湖の民の骨で作った「死者の短剣」を使わなければ殺すことができません。この悪鬼はどこに出現するかわからないので、ダグたちのような警邏隊が、見回っているのです。悪鬼についてはネタバレになる部分があるので、是非1作目から読んでみてください。

本書の世界を構築する「死者の短剣」や「基礎」、「地の民と湖の民」などといった要素がよく練られていて、ファンタジーとして読み応えがあります。隻腕でちょっぴり世間に疲れた中年ダグと火花のように明るく賢いフォーンの二人の旅はまだまだ続きます。続編もとても楽しみです。

著者のロイス・マクマスター・ビジョルドは、ヒューゴー賞ネビュラ賞を受賞しているSF・ファンタジー作家です。 有名なのは、ヴォルコシガンシリーズで、身体的ハンデを持ちながら、知略と大胆さで活躍するマイルズ・ヴォルコシガンを主人公にしています。このシリーズもかなりお勧めです。ファンタジーでは「五神教シリーズ」「スピリットリング」があります。