バジリスクの魔法の歌
バジリスクにグリフィンときたからには、何か異形のモノたちの話なのかと思ったら、バジリスク家とグリフィン家という公家の権力争いから端を発した復讐物語でした。マキリップですからもちろん魔法・音楽が絡んでくるのですが・・・
物語は黒焦げになったトルマリン宮殿から始まります。焼き尽くされた部屋の暖炉の中で「灰」が訪問者を見つめる場面です。語り手は「灰」であり、どういう意味なのかしばらくわかりません。読み進めていくうちに「灰」の正体に気づくという構成になっています。(ここらへんは東京創元社の立ち読みページで冒頭が読めるので是非味わっていただきたい。)
不可思議で詩的な語りで読者のイメージを喚起し、その後謎が解明されるというマキリップの物語には、いつも幻惑されてしまいます。
主人公は、名前も記憶もなくし、自分が何者なのかを知らぬまま吟遊詩人の学校で育ちます。そして、北の奥地、都へと舞台を移しながら物語りは展開していきます。
今回は名前すら奪われた少年の約40年にわたる物語で、甘さはゼロなんですが、登場人物の一人であるダミエット姫がユニーク。服と恋にしか興味がなく、恐ろしいほどの音階の持ち主なんですが、どうしてもオペラで主役をはりたくて、音楽学院の教授に無理難題をふっかけるんです。その辺のやりとりが唯一笑える場面で、ほかは暗くて重厚です。復讐譚ですからね。
とても美しく暗く重厚な物語なのですが、若干わかりにくいところがあります。英語で読むともしかしてもっとシンプルでわかりやすいのかもしれません。
それからルナというバジリスクの娘が出てくるのですが、強烈な個性の持ち主で、彼女の物語を読んでみたいと思いました。
この本は本が好きさんより頂きました。ありがとうございました。
バジリスクの魔法の歌
- パトリシア・A・マキリップ
- 東京創元社
- 1050円
書評