ブライアン・セルズニック「ユゴーの不思議な発明」

「知ってる?機械は全て目的があって作られるって。」「たぶん人間も同じだ。もし目的を失ったら・・・こわれた機械みたいなもんだよ」p382,383 


160枚近いモノクロのイラストと間に挟みこまれた文章が、映画のような不思議な読後感を味わわせてくれます。映画化されるのも納得。最後が少し駆け足だったので、もう少しその辺も書き込んでくれたらうれしかったなあ。物語の展開が意外なので、あらすじなどを全く読まない方が楽しめると思います。

ユゴーの不思議な発明

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大野更紗「困ってる人」

ビルマの難民を支援するべく奮闘していた女子大学院生が難病にかかり、日本の医療制度の中で自らの「難」に向き合う中で知った現実に対する考察と、彼女の闘病をユーモア溢れる文章で綴った本。


彼女の病状、治療の痛みに関する描写を読むときはとても辛かった。自分が痛みに弱いせいもあると思うが。。。

難民と難病。どちらにも使われている「難」にこだわりながら、自分の置かれた状況を冷静に描写しているところがすごい。本に書かれたことは、一部でもっともっと大変なことがあったことは想像に難くない。

彼女が提起した様々な問題に対して、私には何ができるのか。まずは、自分の仕事を通じてできることをやろう。


困ってるひと

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クリスティン・カショア 「剣姫ーグレイスリング」

剣姫―グレイスリング (ハヤカワ文庫 FT カ 6-1)

剣姫―グレイスリング (ハヤカワ文庫 FT カ 6-1)

ミソピーイク賞、全米図書館協会2009年ベストYA! をとっているのも頷ける面白さでした。世界設定で目新しいのは「賜物」と呼ばれる力くらいで、後はそれほど作りこまれてはいません。ファンタジーそのものを楽しむというよりも、主人公の成長と冒険を楽しむ物語だと思いました。まさにYA。


では簡単なあらすじを


主人公は賜物持ちで、幼い頃に親戚の子を殺してしまったことから王の殺し屋として育てられたカーツァ。人に心を開かず、友といえるのは従兄弟で、現王の息子ラフィンだけ。カーツァは、人を傷つけることが大嫌いだが王の命令には逆らえず、影で人を助ける秘密機関を運営している。王に命じられた理不尽な命令も何とか人を傷つけないように計らって過ごしてきた。その秘密機関の仕事のため忍び込んだところで、カーツァはポオと知り合う。

ポオもまた賜物持ちで、カーツァに負けず劣らずの戦いの腕を持っている。最初は反発していた彼との友情がカーツァの呪縛を取り除いていく。ポオのある一言で、とうとう王に反旗を翻したカーツァはポオと共にある少女を助けに行く。この旅が二人の関係を決定的に変えてしまうのだが。。

ここから雑感です。
カーツァが殺し屋にならざるを得なかった過程、そしてそこからもがきながら離れようとする過程が無理なく書かれていて読みやすいです。生育環境というのはかなり個人を縛るものだから、カーツァの心の葛藤は納得できます。カーツァの心を開けるのはポオみたいな人だけでしょうね。保護者気取りのギドンでは、そりゃ無理だわ。ギドンにプロポーズされたときのカーツァの心情は、ものすごく納得!

二人のロマンスもYAならではのどきどき、もじもじ感がいいです。相手の目を中々正視できないツンデレの姫様に、カーツァに負けても全く卑屈にならないポオ。すれ違いはあまりなく、不器用な二人のやりとりが清清しい、是絶妙な組み合わせです。二人が離れなければならない場面は本当に切ないです。

そして、強烈な存在感のビターブルー王女。十歳とは思えない胆力。惚れます。

天使のテディベア事件 ジョン・J・ラム


天使のテディベア事件 (創元推理文庫)

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書評


杖をつかなければ歩けなくなってしまい警察を退職したブラッドリーは、美人の愛妻アシュとともにテディ・ベアショーに参加するためにボルチモアにやってきた。今回は、ブラッドリー自身が作成したテディ・ベアも出展するのだ。もちろん、妻のアッシュがいろいろと手助けしてくれたけれども、ほとんどを自分で仕上げたのだ。現地につき、自分達のブースの準備をしようとしていたときに、言い争いをしている夫婦を見つける。妻の方は有名なテディ・ベア作家だったが、夫はどうやらDVの常習者のようだ。ブラッドリーは首尾よく彼女を助けるが、夫から強い反感を買ってしまう。そして、後日そのテディ・ベア作家が死亡。殺人の疑いが出てきた。ブラッドリーも警察に疑われ、連行されてしまうことに。真犯人は一体だれなのか、そしてその理由は?

かわいらしいテディ・ベア作家達の間に渦巻く利権と嫉妬。何だか読んでいてげんなりしてくるほど、嫌な被害者だった。ブラッドリーを連行した警察も嫌なやつだったし、真犯人も自分勝手だし。。ただ、最後あたりにブラッドリーが「人生は公平なものだと考えている。」と言ったように、嫌なやつにはそれなりの報いがあったことがよかった。

なお、私は第1巻は読まずこの巻だけを読んだが、登場人物の関係やその背景などもきちんと説明していあるので、不都合はなかった。本作だけでも十分楽しめる。

「本が好き」さんから献本していただきました。ありがとうございます。

永遠の女王

愛しいアッシュリンはサマーコートの女王。夏至が近づくにつれ、サマーキングに強く惹かれてしまうことは覚悟していたはずだった。それでもセスは人間である自らに対し、いらだちをおさえられなかった。永遠の命さえあれば。だが人間を妖精に変えることができるのは、ハイコートの女王だけ。コート間の思惑が、恋人たちを翻弄する。ロマンティック・ファンタジーの決定版第3弾。

「妖精の女王」「闇の妖精王」に続く第3弾です。これまでの経緯等もかかわってくるので、順番通りに読むことをお勧めします。

さて、1巻のネタバレをしなければどうしても感想を書くことができないので、少しネタバレしてしまうことをお許しください。


1巻でサマーコートの女王となることを選んだアッシュ。それでも、セスとはこれまで通り、恋人としてつきあっています。しかし、アッシュは妖精、セスはただの人間。サマーコートの王であるキーナンは、いずれセスが死んだ後にアッシュを自分のものにするつもりで、虎視眈々と狙っています。セスは、キーナンの狙いをわかっているのですが、永遠に生きるアッシュのことを、自分亡き後大事にしてくれるであろうキーナンと、アッシュの絆を複雑な思いながらも容認してきたのでした。しかし、ホンネでは、キーナンなんかに渡したくはない!(そりゃあそうです。キーナンって本当に最低野郎ですから)悩みながらも、耐えていたセスにある機会が...

シリーズ読み通してきて、キーナンにイライラしてきたんですが、アッシュの態度にもイライラ。。。セスは、もっといい女を探したほうがいいんじゃないのー?と思っていたら、文庫本の解説者さんも同じ気持ちだったらしい(笑)

1巻を読んだときには妖精モノ恋愛YAという雰囲気だったのですが、4つのコートの思惑も入り乱れてきて先が読めない展開になってきてます。


あ、ちょっと気持ちよかったのがドニアですね。よく言ったぞ!!


永遠の女王

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書評

夏至の森

七年ぶりに故郷に帰ったシルヴィアを待っていたのは、鬱蒼とした森に抱かれたリン屋敷と、曾曾曾祖母の手記。森には美しくも怖ろしい女王とその眷属が棲み、祖母が主宰する村の女たちのギルドが、屋敷を彼らから護っているのだという。シルヴィアがあわてて都会に戻ろうとしたとき、従弟が消えて取り替えっ子が現れた。『冬の薔薇』に続く、詩人マキリップの幻想に満ちた妖精譚。


夏至の森

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書評

夏至の森」は、マキリップには珍しく現代の物語です。携帯電話も出てきますが、全く世界観には揺るぎがなく、違和感もありません。もしかしたら、いつもの重厚な物語よりもすんなりと、物語へ入り込んでいけるかもしれません。



さて、主人公のシルことシルヴィアは、書店を経営し、恋人もいる自立した女性。七年前にリン屋敷を出てから、一度も故郷へは帰ったことがありません。そのシルをリン屋敷へと呼び戻したのは、祖父の訃報を伝える祖母アイリスからの電話でした。リン屋敷には、従兄弟のタイラーとおばのキャサリン、アイリスが待っていました。シルの帰りを七年間切望していたアイリスは、シルに曾曾曾祖母の手記を渡します。アイリスは、シルにリン屋敷を継いでもらいたいと考えているのです。祖父の葬式の日を待つ間、シルは次第に屋敷を取り囲む森の謎、祖母の秘密などに巻き込まれていくのですが・・・。

屋敷を守るギルド、妖精の取替えっ子、鬱蒼とした森、妖精の食べ物・・・魅力的なエピソードが盛りだくさんで、森の女王との対決も読み応えたっぷりです。人と妖精との恋愛も少しだけ出てくるのですが、それがちょっと年配の方で、とても切ないんです。その辺も中々よかったです。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわ。」わたしはつぶやいた。「昔話はみんなそんなふうに言ってる。こういうことなのかもしれない。ああいうことかもしれない。確実にわかってるのは、なにかが起きたことだけ。物語は見るたびに変わる。目を向けた瞬間、そのときいちばん必要なものに変化するの。」

物語の終わり間際、シルは、タイラーにこう語っています。魅了される物語というのはそういうものだと思います。

細川貂々「本当はずっとヤセたくて。―自分のために、できること」



本当はずっとヤセたくて。―自分のために、できること

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書評


20代前半は体重が47kgだったのに、10年間で62kgになってしまった細川貂々さん。自分に向き合うことでダイエットに成功した著者の日々を漫画で描いた本です。

まず、漫画なのでとても読み易いです。短い時間でさらっと読めるのに、よくよく読むと奥が深い。

著者が太っていく過程は、自分にも覚えがあって、「いたたた。。」と思いながら読んでました。あれこれ挑戦するものの続かないところや、すぐ自分に言い訳をしてしまうところ。写真も嫌いだし、鏡を見るのも好きじゃない。あー、まさに私だ。これって、やはり自分のことをちゃんと見ようとしていない、逃げてたってことなんでしょうね。


著者は、連れ合いさんの的確な突っ込みとアドバイスで、自分の心と体に向き合って、ダイエットを続けます。自分のためにできることって何だろう、自分を好きになるってどういうことだろう、と。

短い時間で、簡単にやせる方法なんてない。それは、よくわかっているのですが、改めてそのことを確認させてくれる本でした。ダイエットって、要は己と向き合って修練する自己鍛錬なのだなと思いました。


私も今日から自分に向き合って、自分と対話して、記録して、心も体も身軽になろうと思います。

この本は、本が好きさんより、献本していただいた本です。ありがとうございます。