クリスティン・カショア 「剣姫ーグレイスリング」

剣姫―グレイスリング (ハヤカワ文庫 FT カ 6-1)

剣姫―グレイスリング (ハヤカワ文庫 FT カ 6-1)

ミソピーイク賞、全米図書館協会2009年ベストYA! をとっているのも頷ける面白さでした。世界設定で目新しいのは「賜物」と呼ばれる力くらいで、後はそれほど作りこまれてはいません。ファンタジーそのものを楽しむというよりも、主人公の成長と冒険を楽しむ物語だと思いました。まさにYA。


では簡単なあらすじを


主人公は賜物持ちで、幼い頃に親戚の子を殺してしまったことから王の殺し屋として育てられたカーツァ。人に心を開かず、友といえるのは従兄弟で、現王の息子ラフィンだけ。カーツァは、人を傷つけることが大嫌いだが王の命令には逆らえず、影で人を助ける秘密機関を運営している。王に命じられた理不尽な命令も何とか人を傷つけないように計らって過ごしてきた。その秘密機関の仕事のため忍び込んだところで、カーツァはポオと知り合う。

ポオもまた賜物持ちで、カーツァに負けず劣らずの戦いの腕を持っている。最初は反発していた彼との友情がカーツァの呪縛を取り除いていく。ポオのある一言で、とうとう王に反旗を翻したカーツァはポオと共にある少女を助けに行く。この旅が二人の関係を決定的に変えてしまうのだが。。

ここから雑感です。
カーツァが殺し屋にならざるを得なかった過程、そしてそこからもがきながら離れようとする過程が無理なく書かれていて読みやすいです。生育環境というのはかなり個人を縛るものだから、カーツァの心の葛藤は納得できます。カーツァの心を開けるのはポオみたいな人だけでしょうね。保護者気取りのギドンでは、そりゃ無理だわ。ギドンにプロポーズされたときのカーツァの心情は、ものすごく納得!

二人のロマンスもYAならではのどきどき、もじもじ感がいいです。相手の目を中々正視できないツンデレの姫様に、カーツァに負けても全く卑屈にならないポオ。すれ違いはあまりなく、不器用な二人のやりとりが清清しい、是絶妙な組み合わせです。二人が離れなければならない場面は本当に切ないです。

そして、強烈な存在感のビターブルー王女。十歳とは思えない胆力。惚れます。