冬の薔薇


冬の薔薇

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書評/SF&ファンタジー

ロイズは風変わりな少女だった。人には見えないものを視る目をもち、森を気ままにさまよい歩く。ある日彼女は泉のほとりで、光の中からひとりの若者が歩み出てくるのを見た。彼の名はコルベット、廃墟となっていたリン屋敷の跡取りだという。だがそこは呪われてると噂されるいわくつきの屋敷。ロイズは魅了されたかのように呪いの正体を探るが……。幻想の紡ぎ手マキリップが民間伝承をもとに織り上げた、こよなく美しいファンタジー

本をいただいてすぐに読んだのだが、どう感想を書いたものか迷っているうちに今日になってしまった。マキリップらしい、美しく幻想的な森の描写。そしてその美しさの中に人を惑わす何か怖さが潜んでいる。

物語はロイズの目を通して語られていく。森を愛し、人の目には見えないものを視ることのできるロイズは、ある日、光の中から歩み出てきた若者を見た。彼の名はコルベット。リン屋敷の跡取りだ。村人たちは、彼は馬に乗ってやってきたというが、それは違う。廃墟となったリン屋敷に戻ってきた、不思議な魅力を持つコルベットに惹かれていくロイズ。しかし、彼が目を留めたのは、ロイズの美しい姉ローレルだった。姉には将来を誓った恋人ペリンがいたが、コルベットとローレルは互いに思いを寄せ合っていく。二人を見つめるロイズとペリンの辛い思いが伝わってきて切ない。

4人のそれぞれの思いはどうなっていくのか、そしてリン屋敷の呪いは?


この物語は、タム・リンという伝承を下敷きにしている。訳者あとがきにも書かれているように、同じ伝承を下敷きにしたファンタジーにD.W.ジョーンズの「九年目の魔法」がある。こちらは、マキリップとはまたまったく違う切り口で、好きな本だ。二冊を読み比べると面白い。

九年目の魔法 (創元推理文庫)

九年目の魔法 (創元推理文庫)

また、スーザン・クーパーによる「妖精の騎士タム・リン」という絵本もある。こちらは未読だが、再話なので、伝承に近いものかもしれない。

妖精の騎士 タム・リン

妖精の騎士 タム・リン