魔法の使徒



魔法の使徒(上下巻)

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書評/SF&ファンタジー

アシュケヴロン家の跡取りヴァニエルは、一族から美しい容貌を鼻にかけた軟弱者と馬鹿にされていた。唯一の理解者だった姉も遠くに行き、孤立を深めるヴァニエル。父はヴァルデマールの〈使者〉である伯母サヴィルのもとで教育させるべく、彼を都に追いやる。新しい環境にもなじめず絶望するヴァニエルに、救いの手をさしのべた人物がいた。〈魔法使者〉ヴァニエルの波乱の生涯を描く、〈ヴァルデマール年代記〉の新たな三部作開幕!

ヴァルデマール年代記で重要な核となる最後の〈魔法使者〉ヴァニエルの物語がようやく翻訳されました。出版されている本の中で2番目に古い年代の物語です。教養文庫から出ていた「女王の矢」が絶版となり、仕方がなく洋書で読み、そこからヴァルデマール年代記に引き込まれてしまった私ですが、このヴァニエルの「THE LAST HERALD MAGEシリーズ」は購入してありながら、中々手を出せない本でした。それは、後世に伝えられているヴァニエルの伝説が痛々しかったからです。今回、「本が好き」さんから本を頂いて読む機会がもて、うれしく思っています。

まずは、表紙ですね。末弥さんのイラストが美麗!!言うことないです。PB版のヴァニエルは、本当にひどい○男で、それも読む気がうせた一因だったことを今思い出しました…


上巻前半は、ヴァニエルの生い立ちが語られ、彼がなぜ不遜で傲岸な態度を身につけてきたのか、どんな精神状態であったのかが明らかにされていきます。そうして、出会った運命の恋人タイレンデル。彼に依存していくような関係になってしまったのは仕方のないことだったのでしょう。でも二人の愛が破滅を招き、ヴァニエルは深い深い絶望の中へ突き落とされてしまいます。そこから彼がどう這い出し、立ち上がっていくかが後半では語られます。二人の破滅の場面、ヴァニエルの絶望…読んでいるのも辛いですが、最後には彼は立ち上がります。そして、運命の刻へ向かって歩き出すのです。続編が待ち遠しいです。


二人はシェイ=エイ=チェルン(同性愛者)ですが、二人の心の結びつきが語られていてちっともきわどい場面はありません。(ヴァルデマール年代記には、同性カップルが結構出てきます。)先入観を抱かずに読んでいただければいいなあと思います。

ヴァルデマール年代記後半では、魔法は抑制されていてあまり派手なものは出てこなかったと記憶しているんですが、この物語では魔法対決がバンバン出てきます。<門>の形成や魔法対決の場面など実に迫力があります。独特の言葉も多いので入りにくいかもしれませんが、中央公論から出ているヴァルデマールの使者シリーズ「女王の矢」「宿縁の矢」「天翔の矢」あたりから読むとわかりやすいかもしれません。ファンタジー好きさんにはおすすめ。こちらは東京創元社さんのページです。既刊一覧もあります。

翻訳者さんが、ほかの本とは違う方なのですが、とても気を使って翻訳されていることが後書きから拝察され、好感が持てました。