時計を忘れて森へいこう 光原 百合

時計を忘れて森へいこう
時計を忘れて森へいこう

著:光原 百合|出版社:東京創元社|発売日:1998/04|単行本|4488012205|

清海という土地にある(清里がモデル)が舞台。「シーク」という環境教育などを行っている団体での小さなできごとを探偵役のレンジャー(自然解説指導員)の護と語り手の女子高生翠が解決していく物語。二人が解決していくのは、おどろおどろしい殺人事件などではなく、人の心の苦しみだ。""

(以下引用p.191))

「ときどき思うんです。純粋な悲しみならば、人間は時間がかかっても超えていけるようにできているのかもしれない。遺伝子に組み込まれているのか、神様がそうしてくださったのかわかりませんが。

でも純粋な悲しみに何かが混ざったとき、それは苦しみに変わる。悲しみは人を優しくするけれど、苦しみは人間をむしばんでいく。」
「何かって?」
「たとえば後悔。嫉妬。自責。不信。そう言ったものです。」
(中略)
護さんは事実という糸を集めはじめているのだ。真実という物語を織るために。
悲しみを癒すことは神様と時間にしかできない。だけど苦しみを悲しみに蒸留することは、もしかすると人間にもできる。
(引用終わり)

事実は人によって受け取り方が違う。苦しくてもそこに潜む真実を知ることで人は前へ進めるのかも知れない。一つ一つのエピソードがすとんと心に落ちていって、私にはとても収まりの良い物語だった。読後がこんなに爽やかなミステリも珍しいのではないかと思う。最近読んだ本では恩田陸「光の帝国」のあの話くらい。森の表現も好き。ちょっとずつ選んだので結構時間がかかったが、もう一度ゆっくり読みたい本。