夏至の森

七年ぶりに故郷に帰ったシルヴィアを待っていたのは、鬱蒼とした森に抱かれたリン屋敷と、曾曾曾祖母の手記。森には美しくも怖ろしい女王とその眷属が棲み、祖母が主宰する村の女たちのギルドが、屋敷を彼らから護っているのだという。シルヴィアがあわてて都会に戻ろうとしたとき、従弟が消えて取り替えっ子が現れた。『冬の薔薇』に続く、詩人マキリップの幻想に満ちた妖精譚。


夏至の森

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書評

夏至の森」は、マキリップには珍しく現代の物語です。携帯電話も出てきますが、全く世界観には揺るぎがなく、違和感もありません。もしかしたら、いつもの重厚な物語よりもすんなりと、物語へ入り込んでいけるかもしれません。



さて、主人公のシルことシルヴィアは、書店を経営し、恋人もいる自立した女性。七年前にリン屋敷を出てから、一度も故郷へは帰ったことがありません。そのシルをリン屋敷へと呼び戻したのは、祖父の訃報を伝える祖母アイリスからの電話でした。リン屋敷には、従兄弟のタイラーとおばのキャサリン、アイリスが待っていました。シルの帰りを七年間切望していたアイリスは、シルに曾曾曾祖母の手記を渡します。アイリスは、シルにリン屋敷を継いでもらいたいと考えているのです。祖父の葬式の日を待つ間、シルは次第に屋敷を取り囲む森の謎、祖母の秘密などに巻き込まれていくのですが・・・。

屋敷を守るギルド、妖精の取替えっ子、鬱蒼とした森、妖精の食べ物・・・魅力的なエピソードが盛りだくさんで、森の女王との対決も読み応えたっぷりです。人と妖精との恋愛も少しだけ出てくるのですが、それがちょっと年配の方で、とても切ないんです。その辺も中々よかったです。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわ。」わたしはつぶやいた。「昔話はみんなそんなふうに言ってる。こういうことなのかもしれない。ああいうことかもしれない。確実にわかってるのは、なにかが起きたことだけ。物語は見るたびに変わる。目を向けた瞬間、そのときいちばん必要なものに変化するの。」

物語の終わり間際、シルは、タイラーにこう語っています。魅了される物語というのはそういうものだと思います。