時計坂の家 高楼方子

時計坂の家
時計坂の家

著:高楼 方子|出版社:リブリオ出版|発売日:1992/10|単行本|4897843197|

何度体験しても,慣れるということのないできごとがあるとしたら,これもそのひとつだった。言い様のない不可思議さに,初めてのときと同じ眩暈をおぼえるのだ。そしてやがて,目の前に,ぼんやり,ぼんやり,緑色の景色があらわれる。牡丹色の霞の中からふうわり,ふうわり,立ちあらわれてくるのだ。""

夏休みにいとこに誘われて訪れた祖父の家。フー子は,奇妙なものを見つける。階段の踊り場から三段だけの階段があり,そこには窓があるのだ。その窓は塞がれた扉だった。扉のノブには懐中時計がぶらさがっている。フー子の目の前で懐中時計が花にかわり,目の前に緑の草原があらわれる。・・最初は,あまいファンタジーかと思ったが,どうしてどうして。中々に怖いお話なのだ。餓えるほどに憧れを持つことの怖さ。魅惑的な「園」。途中で,ナルニア国を思わせるところが出てくるし,「裏庭」とは,また違った異界を覗けるお話。おもしろかった。(1999/10/22)