ポプラの秋 湯本 香樹実

ポプラの秋
ポプラの秋

著:湯本 香樹実|出版社:新潮社|発売日:1997/06|文庫|4101315124|

夫を失ったばかりで虚ろな母と、もうじき7歳の私。二人は夏の昼下がり、ポプラの木に招き寄せられるように、あるアパートに引っ越した。不気味で近寄り難い大家のおばあさんは、ふと私に奇妙な話を持ちかけた―。18年後の秋、お葬式に向かう私の胸に、約束を守ってくれたおばあさんや隣人たちとの歳月が鮮やかに甦る。世界で高い評価を得た『夏の庭』の著者が贈る文庫書下ろし。""

父親の事故死でポプラ荘へ越してきた母と千秋。千秋は,日常のあちこちに口をあけているマンホールから必死で身を守るうち,体を壊してしまう。日中,ポプラ荘の大家のおばあさんと過ごすことになる。ポパイに似ているおばあさん,最初はこわかったのだが,千秋は次第におばあさんと心を通わせて行く。ある日,千秋はおばあさんの秘密を知る。おばあさんは,あの世へ届ける手紙を預かって回っているのだ。

静かで,しっとりした物語だった。あの世へ届ける手紙を預かるおばあさんもなかなかいいし,登場人物がみんな何だかいい。母を守ろうとする子と,子を守ろうとする母。でも,からまわりしてしまうんだよな。切ないです。あとがきの,作者のおばあちゃんの言葉が心の残る。「あのね,あたしなんか後で考えて,『ああ,あの時は,あんなに若かったのに』って思ったことが山ほどある。1日1日をだーいじに,好きなように生きなさいよ。」わたしも似たようなこと,言われたことあるな。もう死んじゃったおばあちゃんに。(1999/10/16)